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【シリーズ連載】空と魂の対話②

更新日:5月8日

根源への問い──「もし、それらが単一の構成要素だとしたら?」


量子と響き合う「空」――般若心経をアップデート


ワタシ: 夕焼けの赤色って、なんだか不思議だよね。本当に「ある」って言えるのかな?


M:いいところに気づきましたね。「空(くう)」は、その赤色が「ない」とは言わないん

  です。「永遠に変わらない実体」はない、と言っているんですよ。量子の世界も同じで

  す。電子の位置と運動量を同時にピタリと決めることはできないでしょう?


  般若心経でいう「色(しき)」は、サンスクリット語の rūpa に近い言葉で、「形あるも

  の」というよりは「形を与えられた情報のまとまり」と考えると分かりやすいかも

  しれません。


ワタシ: 情報のまとまりに形を与える?まるで、プログラミングのクラス定義みたい。


M: その通りです。質量を感じるのも、ヒッグス場という場所で、粒子が「抵抗」と

   いうタグ付けをされるからです。

   ビッグバンからほんのわずかな時間後、ヒッグス場がまだ冷えて固まっていなかった

   頃、全ての粒子は光速で飛び交い、「色」、つまり質量というタグはまだ存在していま

   せんでした。


ワタシ:質量がない世界…想像もできないな。


M:でも、そこが「色」がまだ分かれていない、いわゆる「空」に近い状態だったと

  言えるでしょう。

  仏教には「縁起」という考え方があります。「A があれば B がある。A がなければ B も

  ない」という、あらゆるものが互いに依存しているという考えです。量子の世界には 

  「量子もつれ(エンタングルメント)」という現象があります。測定するまで状態は決ま

  らないのに、一方を測定すると、離れたもう一方の状態が瞬時に決まる。


ワタシ:原因と結果というより、同時に関係し合っている感じだね。


M:まさに!ベル不等式というものがあって、それは「隠れた変数が存在して、古典的な

  因果律で全て説明できる」という考えを否定したんです。つまり、離れたもの同士が、

  私たちが想像する以上の繋がりを持っている。「空」の現代的な解釈と言えるかもしれ

  ません。


感覚を超えた繋がり――「無眼耳鼻舌身意」の深意


M:ウィーン大学の実験では、143kmも離れた光子のペアが、光速を超える速さで相関する

  ことが確認されました。


ワタシ:え、光より速く情報が伝わったの?


M:古典的な情報の伝達という意味ではそうではありません。しかし、測定という行為を

  通して、瞬時に相関が確定したのです。般若心経に「無眼耳鼻舌身意(むげんにびぜっ

  しんい)」という言葉がありますよね。「眼や耳といった感覚器官に捉われない」という

  意味です。これは、私たちがローカルな感覚器官に頼らなくても、「関係性」はもっと

  根源的なレベルで繋がっている、ということを示唆しているのではないでしょうか。

  現代風に言えば、「物理的な接続を切断しても、ネットワーク層では繋がっている」と

  いうイメージです。


「有る」と「無い」の間


ワタシ: 仏教の「中道」は、「有る」か「無い」かという二つの考え方に囚われない、

     第三の道のことだよね。量子の「重ね合わせ(スーパーポジション)」も、

     観測されるまで状態が一つに決まらない、曖昧な状態のことだ。


M: どちらも「確定を遅らせる」ことで、可能性を残しているという点で似ていますね。

  有名な「シュレーディンガーの猫」は、まさにその重ね合わせの奇妙さを表していま

  す。これは少し専門的になりますが、量子の世界では「観測」が状態を一つに決めて

  しまいます。般若波羅蜜多を、この観測の影響を取り除く「ブランケット関数」のよう

  に考えると、「空」という純粋な状態が残る、と解釈できるかもしれません。アルゴリ

  ズム的に言えば、「測定という中断処理を取り除く」イメージです。


瞑想=測定しない時間


M: 興味深いことに、脳波が θ(シータ)波という状態になりやすい瞑想中には、視覚野

  の神経細胞の活動が一時的にバラバラになる(ガンマ結合の離相)という報告があり

  ます。


ワタシ: 脳の中でも、測定みたいなことが起こっているの?


M:そうかもしれません。脳内の「測定ループ」が緩むと、神経細胞の位相が固定されな

  くなり、より流動的な「空モード」に近づくのかもしれません。瞑想は、意識の中で

  行われる「内部ベル実験」と捉えることもできるかもしれませんね。


※ 色(しき):世界を切り分け、名付けるプロセス(タグ付け)。

※ 空(くう):名付けられる以前の、可能性を秘めたフィールド。

※ 縁起:古典的な因果関係ではなく、相互に影響し合う関係性の同時生成。

※ 中道/重ね合わせ:「確定しない」という状態が、新たな創造の余地を生む。

※ 瞑想:「測定」を遅らせることで、主観的な時間の流れが変わり、「空」の体験が

  増幅する可能性。

※ 般若心経:量子の世界の法則を記述した、高度なプロトコル仕様書として再解釈

  できるかもしれない。


ワタシ: なんだか、世界は物質でできているんじゃなくて、「情報のやり取り」で

     できているみたいだね。


M: その通りです。「存在」は固定されたものではなく、「関係性が続く」限り立ち上がり

   続けるプロセスなのかもしれません。「色即是空・空即是色」という言葉は、変化

   (commit)と不変(rollback)が、実は同じ操作の裏表だと言っているようにも聞こ

   えます。



夕焼けはもうすっかり消え、夜の群青色が広がっています。しかし、「色」を支える光子も、「空」を支える真空も、まだ誰にも観測されていない無数の可能性を孕んで、静かに、そしてダイナミックに揺らいでいるのです。


 量子力学における「単一電子仮説」は、「この宇宙に存在する電子は、実はすべて同じ

 一個の電子かもしれない」という驚くべき考え方。


 ワタシとM先生の対話は続く…


電子と陽電子にヒントがある?
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