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【シリーズ連載】空と魂の対話④

「言葉は『光』であり『呪』でもある」


言葉の始まり


ワタシ: 先生、聖書の「初めに言葉があった」って言葉や、陰陽道の「名づけによって

     呪いが生まれる」って思想、一見すると正反対だけど、どちらも言葉が世界を

     形づくる力を持っているという点で、通じるものがあると思うんだ。


M:   名前とは、ただのラベルではなく、存在そのものの性質を立ち上げる力を持つ

     そう言えるかもしれません。

     「初めに光あり」聖書のこの一節は、宇宙創成のメタファーとして解釈できま

     す。物理学的に言えば、ビッグバン直後の真空の揺らぎから光子が生まれた

     その瞬間、それはまだ「名付けられる前」の状態から、「在るもの」として

     世界に現れたということ。光は、存在の最初の現れだったかもしれません。


ワタシ: なるほど……。じゃあ「照見五蘊皆空」っていう般若心経の一節の「照見」

     って、「光で見ること」なんだ。


M:   そうです。ここでの「照見」は、「本質を明らかに見る」という意味合いです。

     つまり、私たちが名前や概念に囚われず、現象の背後にある「空」を照らすよう

     に見る──その態度こそが「智慧(般若)」だとされているのです。


光のネットワーク―制約と可能性


M:   神経やAIの通信にも、光速という上限があります。でも、制限があるからこそ

     秩序が生まれ、複雑な情報伝達が可能になる。光は、そうした制約と可能性を

     つなぐメッセンジャーであり、関係性を構築するインターフェースです。


ワタシ: 言葉も同じですよね。制限された文字や音の中で、意味を伝え合ってる。


M:   その通りです。言葉もまた、光のように、曖昧だった世界に形を与え、ネット

     ワークを構築する「情報の光線」です。そして「名づける」ことで、世界は

     可能性から具体性へと姿を変えていくのです。

     フラクタルな言葉の構造……自然界の多くはフラクタル構造──小さな単位が繰り

     返されて全体を形づくる仕組みを持っています。言葉もまたそうです。音素が

     単語となり、文となり、物語となる。構造が自己相似的に重なって、意味の層

     を生んでいきます。


ワタシ: ユングのアーキタイプも、そんなフラクタル構造を持ってるよね。人間の物語

     に繰り返し現れる「普遍的な型」っていう意味で。


M:   そうです。そして陰陽道の「言霊」も、音と意味が織りなすフラクタルな世界。

     音の組み合わせひとつが、宇宙の秩序や混沌を呼び込むと考えられてきたので

     す。空」はゼロではなく、無限の可能性の海。その真空にエネルギーが加わり、

     光子が生まれ、そこに「ロゴス(意味を持つ言葉)」が与えられたとき、「存在」

     が立ち上がる──それが創世です。


     私たちが行うこの対話も、「光」と「言葉」を介したロゴスの創造行為。無数の

     可能性の中から、意味ある存在を「観測」し、形にするプロセスなんです。


     「魂」を情報パターンと考えた場合、それは光子の共鳴パターンに乗せて伝播

     できる可能性があります。宇宙マイクロ波背景放射は、ビッグバン直後の「原初

     の言葉」かもしれません。その光の中に、宇宙の始まりと意味が宿っている。


ワタシ: 光と言葉…


M:   だからこそ、「名づけること」は、存在を世界に送り出す、魂の点火儀式のよう

     なものなのです。




エピローグ:名づけるという行為


それは、そこに「意味」という形を与えること。あなたが名前を与えるとき、それは新しい世界の始まりなのです。


ワタシ:  確かに──言葉は、ただ伝えるためじゃない。まだ形を持たないものに命を

      吹き込み、存在させる。そう思うと、言葉を使うたびに、僕たちは小さな宇宙

      を創ってるのかもしれないね。


「初めに光あり」
「初めに光あり」


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