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【連載ブログ・最終稿】令和版「新しき村」の可能性~「公益資本主義」「脱成長コミュニズム」「SINIC理論」と日本の相互扶助文化が拓く未来~


 今回の連載では、「公益資本主義」「脱成長コミュニズム」「SINIC理論」といった先進的な理論を軸に、沖縄の「ゆい」や北海道の相互扶助文化をはじめとする日本各地の伝統を

組み合わせ、2030年に向けた持続可能なコミュニティの在り方を探求してきました。


実は、今回のブログでまとめた考え方を約100年前に実践した、偉大な文化人・作家・

画家・哲学者が存在します。武者小路実篤氏です。本連載の最後に、彼が創設した



「新しき村」の思想と現状を踏まえつつ、令和版新しき村の可能性を改めて考えてみましょう。

人生の美しさや人間愛を語る実篤
人生の美しさや人間愛を語る実篤

「新しき村」とは?


新しき村の概要

武者小路実篤が1918年に宮崎県で創設し、その後埼玉県にも拠点を広げながら、実に100年以上存続してきた小規模共同体です。


  • 理念:人間の善性を信じ、助け合いながら生きる

  • 基盤:農業を中心とした自給的コミュニティ

  • 重視:芸術や創造による心の豊かさ、顔の見える信頼関係


うまくいかなかった点と現状をみつめる


  1. 経済的自立の難しさ

    • すべてを自給自足に頼る理想は困難で、外部社会との経済的連携が必要になった

    • 都市部や他地域との交流・販売ルートの確保が十分でない時期があり、資金繰りに苦戦することも多かった

  2. 人間関係の衝突や離脱

    • 理想が高い分、内部で意見や価値観が合わないメンバーが離れ、村が分裂することもああった。

    • 小規模共同体ならではの濃密な対人関係が、必ずしも誰にとっても心地よいとは

      限らない。

  3. 高齢化と後継者問題

    • 農業中心の生活であるため、若者の参入は容易ではなく、現代ではメンバーの

      高齢化も課題となっている。

    • 収益性・利便性の問題から、村の暮らしに魅力を感じない世代が増えている。


それでも存続する意味

 それでも「新しき村」が100年以上続いた理由は、「助け合い」と「共感」の価値に多く

 の人が惹かれ、理想を共有してきたからに他なりません。完全な自給を達成できなくと

 も、「人間らしい生活」を目指すという理念は、いまなお色褪せていません。


「新しき村」と日本の相互扶助文化


沖縄の「ゆい」と北海道の「お互い様」

  • 「ゆい」:沖縄特有の相互扶助。子育てや農作業などを金銭ではなく「お互い様」で支え合う

  • 北海道の共同作業:厳しい自然環境の中で「結(ゆい)」や「番屋」などが発達し、地域が生き延びるために共助の文化を育んだ


これらの伝統は「新しき村」の精神とも響き合います。どちらも、小規模コミュニティならではの「顔の見える関係」を土台に、お互いを支える仕組みが自然発生的に形成されてきました。


令和版「新しき村」の可能性を高める鍵

 前回までに紹介した「公益資本主義」「脱成長コミュニズム」「SINIC理論」を「新しき村」的な共同体に組み合わせることで、これまでの課題を克服しながら、現代社会に対応した新たなモデルを構築できます。


① 公益資本主義で外部資金と地域をつなぐ

  • 企業や自治体との連携強化:CSR活動や共同プロジェクトでコミュニティを支援

  • 地域通貨や社会貢献ポイント:労働力の「交換」に加え、外部の企業が地域ポイントを買い取る仕組みを整備することで経済の循環を活発化


② 脱成長コミュニズムで適正規模の暮らしを守る

  • 無理な拡大をせず、小さくとも継続できる経済:農業や手工業、福祉サービスなどを循環型で回し、必要以上の成長を求めない

  • 高齢者や子育て世代が共に暮らせる環境:労働集約的な農業を、AIや共同作業でカバーし、負担を減らす


③ SINIC理論でテクノロジーを人間中心に

  • AI導入による効率化:作付け計画や在庫管理、防災システムの最適化など

  • オンラインによる意見交換や販売促進:クラウドファンディングやSNSを活用して、農産物や地域特産品を広くPRし、資金繰りや後継者問題をサポート


実現に向けた具体的なステップ

  1. デジタルゆい・講(こう)の導入

    • SNSやアプリで、地域内外の労働力交換や共同資金づくりを可視化する

    • 新しき村のような共同体を「複数地域で連携」させ、相互にサポートし合う

  2. 農泊・体験型ツーリズムの推進

    • 都市部や海外から人を受け入れ、「新しき村」流の生活を短期体験してもらう

    • 外部とのつながりを強め、経済的な息切れを防ぐとともに、若い世代の移住や参画を促す

  3. 企業・自治体の協賛モデル確立

    • 公益資本主義的発想で、企業の社会貢献(CSR)や自治体予算を、助け合いコミュニティに誘導

    • 収益性が低い分野でも、「社会価値」を見込んだ投資を呼び込む

  4. AIを活用した省力化・効率化

    • 農業や生活インフラ、福祉ケアの領域でAIやロボティクスを導入し、高齢化や人手不足を補う

    • SINIC理論の理念どおり、人間中心のテクノロジーで「助け合い」をサポート


期待される効果

  1. 孤立や高齢化の緩和:助け合い文化の復活により、人々が協力して暮らす環境を整備

  2. 災害リスクへの対応力向上:地域ネットワークとAI支援により、緊急時の復旧が迅速化

  3. 地域経済の安定:農業、福祉、観光などが連携し、収益源を多角化することで生計を維持

  4. 新たな働き方・暮らし方の創造:テレワークやデジタル技術を活かしつつ、利他的共感をベースにした経済モデルを実装


令和版「新しき村」で未来を切り開く

 歴史を振り返ると、「新しき村」は「完全な自給自足」の理想「高い人間関係のハードル」など、現実との齟齬からくる困難も抱えてきました。それでも100年以上も存続できたのは、理想をあきらめずに社会と柔軟に折り合いをつけつつ、「助け合い」を大切にしてきたからです。


 今こそ、沖縄の「ゆい」や北海道の相互扶助、そして「公益資本主義」「脱成長コミュニズム」「SINIC理論」という現代的な理論を掛け合わせ、令和版「新しき村」を各地で実現するチャンスが訪れています。小規模ながら深い絆でつながるコミュニティにテクノロジーを活用し、外部資本や自治体とも連携しながら、課題の克服と豊かな暮らしを両立できるモデルを育てていくことが大切です。


武者小路実篤が掲げた「人は本来、助け合い、共に生きる存在である」という信条は、令和の時代においても揺るぎない価値を持ち続けます。互いを補い合い、一人ひとりの可能性を引き出す社会こそが、これからの日本、そして世界が目指すべき目標なのではないでしょうか。さあ、次の100年へ向けて、令和版「新しき村」の可能性を共に築いていきましょう。

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