日本経済はかつて、「東洋の奇跡」とも呼ばれる高度経済成長期を経験しました。1960年代から80年代にかけて、日本の製品は世界を席巻し、米国に次ぐ世界第2位の経済大国として輝きを放っていました。しかし、1990年代以降、日本経済は長期的な停滞を迎え、いわゆる『失われた30年』と言われる低迷期が続いています。
この30年間、日本経済が低迷した背景には、実は政府が繰り返した「政策の失敗」が
あります。特に深刻な政策ミスは次の3つに集約されます。
デフレ期における増税政策
財政赤字に関する誤解とその影響・将来の成長を軽視した投資不足
①デフレ期の増税政策とは?
例えば、1997年の消費税の引き上げ(3%→5%)が挙げられます。これは景気が悪く物価が下落するデフレ期に、税金を上げてしまったという典型的な政策ミスでした。この増税により、消費者はお金を使う意欲を失い、企業はモノを売れず、経済は一気に冷え込みました。
その後も、2014年(5%→8%)、2019年(8%→10%)と繰り返し消費税が引き上げられましたが、そのたびに日本経済は大きくダメージを受け、景気回復の芽が摘み取られました。
具体的には、消費税率が5%から8%に引き上げられた2014年には、GDP成長率が一気に
マイナスへと転落。さらに2019年の増税でも、個人消費は大きく冷え込み、小売業や飲食業などの生活密着型産業を中心に苦境に立たされました。
②財政赤字に関する誤解とは?
日本政府や財務省は長らく、「借金(国債)が増えると日本経済が破綻する」という考えを国民に植え付けてきました。しかし、これは正しくありません。なぜなら日本政府は、円という自国通貨で借金をしており、必要ならばお金を刷って返済できるため、財政破綻するリスクは極めて低いのです。
にもかかわらず、政府は「財政赤字=悪」として、緊縮財政や増税政策を繰り返しました。その結果、政府の投資や消費が減り、経済が回復するチャンスを奪ってしまったのです。
例えるなら、家庭が住宅ローンを組むこと自体は悪いことではありません。ローンを借りて住居を購入することで、家族の暮らしが安定します。ところが、日本政府は「借金自体が悪い」と考え、必要な投資を控え続けたため、家(経済)はどんどん古くなり、価値を失っていったのです。
③将来を軽視した投資不足とは?
日本経済の衰退に拍車をかけたのが「将来への投資不足」です。特に農業、インフラ、科学技術の分野での投資不足が深刻でした。日本の農業は今や食料自給率が40%を下回り、食料安全保障にも懸念が生じています。また道路や橋、トンネルなどの社会インフラも老朽化が進み、維持管理に膨大なコストが発生しています。
さらに科学技術分野でも、30年以上も政府の研究開発予算がほぼ横ばいのままです。一方でアメリカや中国など他国は積極的に投資を拡大し、AIやバイオ技術、宇宙開発といった最先端分野で急速に先行してしまいました。結果、日本は世界の技術競争から大きく遅れ、かつての技術大国の地位を失っています。

「公益資本主義」という新しい視点~原丈人氏の提言~
こうした問題を解決するために注目されているのが、原丈人(はら じょうじ)氏が提唱する「公益資本主義」です。原氏は、日本の経済再生には単なる政策の変更だけでなく、
経済そのもののあり方を転換すべきだと主張しています。
「公益資本主義」とは、短期的な株主利益を追求する従来型の資本主義ではなく、企業活動を「公益(社会全体の利益)」の追求にシフトする新しい資本主義です。これは企業が利益をあげるだけではなく、その利益を社員、地域、環境、社会のために使うことで、長期的かつ持続的な経済成長を目指す考え方です。
例えば、企業が内部留保(企業が溜め込んだ利益)を、社員の給料アップや新しい技術開発、環境保護などに積極的に使えば、社員は安心して消費が増え、技術が進歩し、環境も守られます。こうした好循環こそが、日本経済を再生する鍵になるのです。
また、公益資本主義は、企業が政治や行政と癒着して利権を生むことを防ぎ、より公平で透明な経済運営を促進します。そのためには、AI(人工知能)などの技術を使って政策判断の公平性を高めることも必要になります。
次回は、この「公益資本主義」を実現するために必要な具体的な財政政策の転換と、AI技術の活用方法について詳しく見ていきます。
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