top of page

心理学的視点で考える ペール・ギュントを支えた愛④

〜人生脚本と再決定:交流分析で読み解く内面の旅〜


 これまでの回で見てきたように、ペール・ギュントという人物は「逃避」と「妄想」

に生きてきた男でした。では、なぜ彼はそこまで「現実」と「愛」から逃げ続けたの

でしょうか?


今回は交流分析(TA)の視点から、ペールが無意識に生きていた「人生脚本」と、

その最終局面で起きたかもしれない「再決定(Re-decision)」について考えます。

 

交流分析(TA)とは?

エリック・バーンが提唱した、心の構造と対人関係のパターンを読み解く心理学・理論で

あり、その代表的な概念を通して整理してみます。


自我状態(Ego States)~私たちの自我は「3つの自我構造」から成り立っています。

 - 親の自我状態  (P):『価値判断・教訓・ルール』などの機能を持っている。

 - 大人の自我状態 (A):『論理的な客観性や合理性』などの機能を持っている。

 - 子供の自我状態 (C):『感情・欲求・反応』などの機能を持っている。


人生脚本(Life Script)~私たちは、自らが描いた「脚本」通りに生きようとします。

 - 幼少期に形成され、大人になっても無意識に影響を与える「生き方のパターン」


ストローク(Stroke)~私たちは誰も、ストロークを求めて生きていきます。

 - 他者との接触=承認・愛情・関心を求める心であり、プラスのストロークが

  得られなければ、マイナスのストロークであっても、求めてしまいます。

  私たちは、ストロークを得るためにあらゆることを行います。


 

登場人物の自我状態

登場人物の自我状態

登場人物

主な自我状態

特徴・役割

ペール

無意識的C(自然な子・反抗的子)未発達のA

妄想と逃避を繰り返す     自己中心的な男

ソルヴェイグ(恋人)

養育的P(Nurturing Parent)

無条件に受け入れ続ける、    肯定的ストロークの象徴

オーゼ(母)

批判的Pと養育的Pの混在

愛しながらも「こうあるべき」とコントロールする存在

ペールの「人生脚本」仮説


「愛されるには、目立たなければ/英雄でなければならない」

「そのままの自分では愛されない」


このような脚本は、母・オーゼの過干渉と賞賛欲求により内面化された可能性が高い。


ペールの行動パターン

 ① ソルヴェイグと出会う → 惹かれるが、純粋な愛が怖くて逃げる

 ② 妄想・英雄願望 → 「特別でなければ生きている意味がない」

 ③ 世界を放浪 → 真の自己と向き合うことからの逃避


このようにペールは、「ヒーローを演じるための台本」に縛られ続けてきたのです。


ストローク経済と「飢餓状態」

ペールは常に「肯定的ストローク」を得ようとしますが…

  • ソルヴェイグの愛(肯定的ストローク)を真正面から受け取れない

  • その結果 → 空想・征服・逃避という疑似的ストロークに依存

  • この状態は、TAで言う「ストロークの飢餓状態」

つまり、愛されたいのに愛されるのが怖いという、ジレンマの中に生きていたのです。


ソルヴェイグ=「無条件の肯定」の象徴

 ソルヴェイグは、ペールが求めていたけれど受け取れなかった「無条件で愛される感覚」の象徴とも言えそうです。


物語のラスト、彼女の腕の中でペールは問います


「僕は誰だった? 僕の人生は何だったんだ?」


そして、ソルヴェイグはこう答えるのです:


「あなたは、私の愛した人だった」


この瞬間こそが、TAでいうところの「再決定(Re-decision)」が起こり得るポイント。


再決定と脚本の書き換え


 幼少期に作られた「誤った信念」や「自己否定」の脚本を、大人の自我状態(A)で

見直し、書き換える行為を「再決定」と呼びます。


ペールにとっての再決定の可能性は


「特別でなくても、僕は愛されていい」


「何者でもなくても、僕には価値がある」


この存在そのものへの肯定を受け入れた瞬間、

ペールは「人生脚本からの自由(Script Freedom)」に近づいたのかもしれません。



結論:交流分析から見た『ペール・ギュント』

項目

内容

脚本信念

愛されるには特別でなければならない

行動パターン

妄想・逃避・支配的な関係

欠けていたもの

肯定的ストロークの充足

再決定の契機

ソルヴェイグの無条件の受容

最終状態

自己の再統合と、存在価値の回復


『ペール・ギュント』は、交流分析的に言えば「誤った人生脚本に支配された男が、最後に愛を受け入れることで脚本を書き換える物語」です。


 彼が最後に得たのは、「偉大な何者かになった自分」ではなく、「何者でもない自分が、それでも愛されていた」という事実


そして、それは現代を生きる私たちにも問いかけているのではないでしょうか

あなたは、自分が“愛されるに値する存在”だと信じていますか?


次回はペールが繰り返した心理ゲームや、内面に仕込まれた禁止令とドライバーを分析し、

人がどのように「無意識のパターン」に囚われて生きているのかを探っていきます。


Commenti

Valutazione 0 stelle su 5.
Non ci sono ancora valutazioni

Aggiungi una valutazione
bottom of page