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管理職の悩みと組織の未来——関西地方の製造業での現場から

執筆者の写真: 横山三樹生横山三樹生

ある企業の研修報告書を作成していたら、似たようなケースを思い出したので

その当時のことを思い出して、整理してみたいと思った。

私にとっても、とても思い出深いケースだった。


三面等価
三面等価


ある関西の企業


昨年、関西地方にあるある製造業の企業を訪問し、全4回の管理職研修を実施した。

その企業は、長年の技術と実績を誇る老舗企業でありながら、ここ数年、組織の硬直化や

世代間ギャップ、利益率の低下といった課題を抱えていた。


研修が進むにつれて、次長・部長職の受講者たちから次々と本音がこぼれた。

彼らの悩みは、一言で言うなら「自信がない」ことだった。

 

「私の役割って、何なんでしょうか?」


 研修の休憩時間、50代の次長・Sさんがそっと声をかけてきた。

「正直な話、私は部下に指導ができていないと感じています。知識が足りないのもあるし、 最近は何を言ってもハラスメントだと言われるんじゃないかと怖くて…。


 それに、部下が何か問題を抱えていても、私には相談せずに別の人に報告するんです。

これは私が信頼されていないからなんでしょうか?」Sさんの目には不安が滲んでいた。

 「Sさんはどういう時に、部下に対して指導がしづらいと感じますか?」と私は尋ねた。

「例えば、ミスがあったときです。以前は『なぜこんなことになったんだ?』と問い詰めていましたが、それでは部下が萎縮すると思い、最近は『次は気をつけよう』とだけ言うようにしている。でも、そうすると、また同じミスが起こるんです。どうすればいいのか…。」


私はSさんの気持ちが分かる。


私も以前はそういう上司だったからだ。私はSさんに話し続けた。

「それは、おそらく“指導”ではなく、ただの“確認”になってしまっているんだと思います。叱ることを避けるのではなく、『どうすれば次に同じミスを防げるか?』を一緒に考える対話が必要だと思うのですが、その辺の部分、どう思われますか?。」


Sさんは目を丸くした。

「叱らずに、指導する…。そんな方法があるんですか?」

「ありますよ。たとえば、ミスが起きたら『今回の問題の原因は何だったと思う?』と

問いかけてみてください。そして、『次に同じことを防ぐにはどうすればいい?』と部下に考えさせる。それを繰り返すことで、部下は“指示待ち”ではなく、自ら改善策を考えるようになります。」


「なるほど…。確かに、いつも私が答えを出していたかもしれません。」

 Sさんは、その後話してくれた。管理職研修が必要と言われた意味が腹落ちしました…と


 

「数字がわからない管理職なんて、意味がないですよね…」


 別の研修後、40代の部長・Tさんが苦笑いしながら話しかけてきた。

「正直に言いますと、売上と利益の違いをちゃんと説明できるかと言われたら、自信がありません。」「財務の勉強をしたことは?」と聞くと、「ほとんどないです。でも、うちの社長は『管理職なんだから数字を見ろ!』とよく言います。」私は言った。

「管理職が財務を理解するのは、単に数字を覚えることじゃありません。数字を使って

“意思決定”ができるようになることが重要です。」

「意思決定?」

「例えば、5Sを徹底することでどれだけコスト削減につながるか、考えたことはありますか?」

「それは…あまり考えたことがありません。」

「管理職が『5Sは大事だからやるべきだ!』と言っても、現場はピンときません。でも、『5Sを徹底すると、1ヶ月で○○円のコスト削減につながる』と説明すれば、現場の動きが

変わりますよ。」

Tさんは驚いたように頷いた。

「なるほど…数字を学ぶのは、計算のためじゃなくて、部下に伝えるためでもあるんですね。」

「そうです。部下を動かすために、数字を使うんです。」


 

「経営理念なんて、現場には関係ないですよね?」


 最後に話をしたのは、30代の若手管理職・Hさんだった。

「経営理念やビジョンの話って、正直ピンとこないんですよ。現場の人間にとっては、

 そんなの関係ないんじゃないかって…。」

 「じゃあ、Hさんの部下に『この会社は何を目指しているのか?』と聞かれたら、

 どう答えますか?」

 Hさんは少し考えて、「売上を上げることですかね…?」と答えた。


「確かに売上は重要です。でも、なぜこの会社が売上を上げるのか、Hさん自身が理解していますか?」

Hさんは黙った。

「経営理念があるのは、単にきれいごとを並べるためではなく、全社員が同じ方向を向くためです。もし現場が『何のためにこの仕事をしているのか』を理解していなければ、

単なる作業になってしまいます。」


「それは…確かに、そうですね。」

「Hさんが、会社の理念を自分の言葉で語れるようになれば、部下も『この仕事には意味がある』と感じられるようになりますよ。」

Hさんは小さく頷いた。

「ちょっと、考え直してみます。」


 

管理職が変われば、組織は変わる


そのときの研修を通じて感じたのは、管理職の悩みは決して個人の問題ではなく、

組織全体の課題であるということだった。

  • 叱ることを恐れて、指導ができなくなっている

  • 財務を知らず、意思決定が場当たり的になっている

  • 経営理念が単なるスローガンになっている


しかし、彼らが変われば、部下も変わる。組織も変わる。

管理職が経営視点を持ち、部下を導く力を身につけること

——それが、企業の未来を作るのだ。


ん?? 本当にそうだろうか?


 

経営者こそ、変わらなければならない


管理職だけが変われば、すべてが解決するのだろうか?

現実には、多くの企業で「管理職に丸投げ」する構造が当たり前になっている。


  • 「お前は管理職なんだから、成長しろ。」

  • 「部下をちゃんと育てろ。」

  • 「数字を理解しろ。」


まるで、すべて管理職の自己責任であるかのように。

しかし、組織として本当に変わるためには、経営者こそが変わらなければならない。


経営者が組織の基盤を整えず、理念を浸透させず、教育の場を提供しなければ、

管理職だけが努力しても根本的な解決にはならない。


三面等価とは?

組織を健全に運営するためには、「義務・責任・権限」のバランスが必要だ。

これが「三面等価」の考え方だ。


義務(Duty)  組織の一員として果たすべき役割。 目標達成のためにやるべきこと。

責任(Responsibility) 結果に対する説明責任。 問題発生時の対応・改善の義務。

権限(Authority) 適切な判断と決定を行うための権限。部下を指導し、組織を動かすための決定権。


多くの企業では、この「三面等価」が機能していない。

管理職に責任だけを負わせ、十分な権限を与えない。


経営層は義務を果たさず、現場任せにしている。

現場は責任を負いたくないため、指示待ちになる。


この構造を放置すれば、組織の未来は暗い。


だからこそ、経営者自身が「三面等価」を意識し、管理職に単に責任を押し付けるのではなく、共に成長する仕組みを作ることが必要なのだ。

組織が変わるためには、経営者から変わらなければならない。


 

3人の管理職、その後の変化——「三面等価」を取り入れて


研修が終わった半年後、Sさん(次長)、Tさん(部長)、Hさん(若手管理職)から、

それぞれ連絡をもらった。

彼らは研修後、何を学び、どう変わったのか。そして、ある日、彼らの変化が組織全体に

影響を与える出来事が起こった。


Sさん(次長):指導の仕方を変えたら、部下との関係が変わった


Sさんからメールが届いた。


「横山さん、研修で言われたことを実践してみました。

ミスがあったときに、今までのように“注意”ではなく“対話”をするようにしました。

最初は、部下も驚いていましたが、今では自分で改善策を考えて報告してくれるようになりました。」


具体的にどう変えたのか聞くと、こんな返事が返ってきた。


「以前は、ミスが起きたら『なんでやったんだ?』と問い詰めていました。

でも、今は『どうすれば防げる?』と、共感的に未来志向で聞くようにしました。

すると、部下が“自分の言葉”で考えるようになったんです。」


さらに、部下からこんな言葉をもらったという。


「今までは“怒られる”だけだったけど、最近は“考えさせられる”ようになった。」


Sさん自身、少しずつだが部下との関係が変わってきていることを実感しているそうだ。


 

Tさん(部長):数字を理解し、会議での発言が変わった


Tさんから連絡があったのは、研修の6ヶ月後だった。


「横山先生、驚きましたよ。

今まで“売上”の話しかしてこなかったのに、“利益”を意識するようになっただけで、

会社の見方がガラッと変わりました。」


研修後、Tさんは自分で財務の勉強を始めた。

5Sと利益の関係を調べ、社内のコスト削減にも取り組んだ。


すると、会議での発言が変わったという。


「今までは『売上を伸ばそう!』って言うだけでした。

でも、今は『このコストを削減すれば、利益が○○%伸びる』と言えるようになったんです。」


すると、社長の反応も変わった。


「最近、お前の発言が具体的になったな。」


Tさんは笑いながらこう言った。


「数字を学んでから、自分の言葉に説得力が出た気がします。」


 

Hさん(若手管理職):経営理念を語れるようになった


Hさんは研修後、「経営理念なんて関係ない」という考えを変えた。


「正直、最初は“理想論”だと思っていました。

でも、部下に『この会社って何を目指してるんですか?』と聞かれて、

ちゃんと答えられなかった自分に気づいたんです。」


それからHさんは、経営理念を「自分の言葉」で説明する練習をした。

研修のときに学んだことを基に、社長の言葉を読み直し、自分なりの解釈を加えた。


「そしたら、驚いたことに、部下が“話を聞いてくれる”ようになったんです。

ただの仕事の指示じゃなくて、『この仕事の意味』を説明できるようになったからかもしれません。」


ある日、部下がこう言ってくれたそうだ。

「Hさんの話を聞いて、ちょっと仕事の見方が変わりました。」

Hさんは、少し照れながらこう言った。

「今まで、“理念は関係ない”と思っていましたが、実は“伝え方”が問題だったんですね。」


 

そして、組織全体に変化が起こった


研修が終わって数ヶ月後、Sさんから一通のメールが届いた。

そこには、ある出来事が書かれていた。


件名:先日の社長とのミーティングについて


こんにちは。お久しぶりです。研修で学んだことを実践してきた結果、少しずつですが

会社の雰囲気が変わってきたように感じます。そして、先日、Tさん、Hさんと一緒に

社長とのミーティングがありました。

社長は、僕たちが研修後に取り組んできたことをじっと聞いた後、こんなことを言いました。

「実はな、お前たちが研修を受けてから、俺もいろいろ考えてみたんだ。」

驚きました。社長が“自分も考えた”と言ったんです。


「会社全体で“三面等価”を考え直すべきじゃないかって。」


僕たちは顔を見合わせました。

今までは、管理職だけが責任を負っていて、権限が足りていなかった気がします。

すると、社長が深く頷いて言いました。


「現場も、指示待ちにならず、自分たちに与えられた権限の中で考えないといけませんね。」

社長は、ゆっくりと僕たち3人を見渡して言いました。


「理念を語るのも、数字を理解するのも、部下を育てるのも、ぜんぶ“三面等価”が機能してこそということだな。」


 会社全体で「三面等価」の考え方を見直し、現場の意見を取り入れた新たな改革が始まりました。評価制度も変えるそうです。


 

メールの文章は、とても躍動感や希望にあふれたものだった。


変わることは、難しい。でも、一歩踏み出せば世界が変わる。Sさん、Tさん、Hさん

——彼らは、ほんの少しやり方を変えただけで、部下との関係、会議での発言、仕事の向き合い方が変わった。


そして、その変化は、経営層をも動かし、組織全体の意識を変えた。

最初から完璧にできる人はいない。でも、「変わろう」と決めた人だけが、変われるのも

事実だ。


管理職が変われば、組織が変わる。そして、経営者が変われば、企業の未来が変わる。


これは、たった3人の物語かもしれない。でも、この3人の変化が、

会社全体を変える第一歩となった。

あなたの会社は「三面等価」を実践できているだろうか?


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