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雅楽とナラティブセラピー ~多声性と関係性が生み出す「場」の力 ① ~

執筆者の写真: 横山三樹生横山三樹生

更新日:3月9日

 【第1回】序章:雅楽とナラティブセラピー——異なる領域に潜む共通点


 私が特に関心を持っているものが二つある。それは、日本の伝統音楽「雅楽」と、

心理療法の一つである「ナラティブセラピー」である。一見すると、これらは全く異なる

領域に属しているかのように感じられるかもしれない。


雅楽の素晴らしさ
雅楽の素晴らしさ


 雅楽は、約1300年もの間、日本で受け継がれてきた古典音楽であり、主に宮廷や神社

仏閣での儀式に用いられる。一方のナラティブセラピーは、1980年代にオーストラリアとニュージーランドで生まれた新しい心理療法であり、個人の抱える問題を「物語(ナラティブ)」として捉え直すことで、新しい視点や意味を発見することを目指している。


 私がこれら二つに共通点を見出したきっかけとなったのは、「オープンダイアローグ」と呼ばれるフィンランド発の精神療法との出会いだった。オープンダイアローグは、対話を

通じて参加者間に新たな意味や理解を生み出すプロセスを重視する。専門家が一方的に診断や治療を行うのではなく、クライアントやその家族、関係者が対等な立場で自由に語り合うことで、問題の意味を再構築していくアプローチである。


 この手法に触れたとき、私はその「多声性」や「即興性」が雅楽の音楽構造と非常に似ていることに気づいた。


 雅楽においても、単一の旋律や明確な和音が追求されるのではなく、異なる楽器がそれぞれ独自の旋律を奏でつつ、全体として調和を生み出している。その調和は完全な一致ではなく、むしろ微妙な「ずれ」や「間(ま)」によって形成される。各演奏者が互いの音を感じ取りながら、その場その場で即興的に調整を行う。この特徴こそ、ナラティブセラピーやオープンダイアローグが持つ対話のプロセスと深く共鳴する部分である。


 つまり、雅楽もナラティブセラピーも、「多声的な関係性」と「即興的なプロセス」を

通じて新しい意味や調和を生み出す哲学を共有していると言えるのだ。この連載では、

これから5回にわたり、それらの共通点をより詳しく探求していく。次回はまず、

「多声性(ポリフォニー)」という視点から、雅楽とナラティブセラピーの類似点を深掘りしていきたい。

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