「タテ社会」はもう古い?日本社会の人間関係を再考する
- 横山三樹生
- 3月23日
- 読了時間: 4分
■ 日本社会の「タテ社会」って本当に今でもあるの?
昨日、師事するT先生との対話の中で、「日本人は上下関係を重視する文化なんだよなぁ」というお話を聞いて、あれこれ考えてみた。みなさんは、どう思うだろうか?
職場での「先輩が絶対」な空気、学校での「後輩は黙って従え」というルール…。
どこかで感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
この「タテ社会」という言葉は、1967年に社会学者・中根千枝氏が著した『タテ社会の人間関係』で提唱された概念が始まりなんだそうです。日本人は能力や成果よりも、「年齢」「勤続年数」「先輩・後輩」といった序列を重視する文化が強く、これが人間関係や社会の仕組みに根づいているという指摘です。
しかし、現代では「タテ社会」は古い考え方だと言われることもあります。果たして、
私たちはこの「タテ社会」をどう捉え直すべきなのでしょうか?
■ なぜ日本に「タテ社会」が根づいたのか?
1. 歴史的背景:農耕文化と武家社会の影響
日本は古くから稲作を中心とした農耕社会が発展しました。田んぼの管理や収穫作業では多くの人が協力する必要があり、役割の明確化が求められました。その際に「長老が指示を出し、若者がそれに従う」という縦の関係が自然に形成されたのです。
さらに、武家社会の時代には主君と家臣の上下関係が強固なルールとして確立し、その名残が現代の組織にも色濃く残っています。
2. 帰属意識の強さ
中根千枝氏は「日本人は『場』に強くこだわる」と指摘しました。会社や学校など、どこかの集団に属していることで安心感を得る傾向があり、その「場」のルールに従う意識が強まります。自然と先輩後輩の関係や年功序列が重要視されてきたのです。
3. 経済成長期の年功序列制度
高度経済成長期には「終身雇用」「年功序列」という制度が広まりました。長く働けば
給料が上がり、役職も上がるという仕組みが、タテの関係をさらに強固なものにしました。
■ タテ社会が持つ「良さ」と「課題」
タテ社会がもたらす「良さ」とはなんでしょう?
① 秩序と安定感
上下関係が明確だと、組織のルールがはっきりし、指示系統が整理されやすい。混乱が
少なく、効率的に物事が進むことが多いです。
② チームワークと結束力の強さ
「上の人を立てる」文化は、帰属意識や団結心を生みやすく、長期的な信頼関係が築かれ
やすい面もあります。
では……、タテ社会が引き起こす「課題」とは?
① イノベーションの阻害
上下関係が強いと、若手や下の立場の人が意見を言いにくくなり、斬新なアイデアが
封じ込められやすいという弊害が生まれます。
② ハラスメントや理不尽な圧力
「先輩だから」「年上だから」という理由だけで意見が通る場合、パワーハラスメントや
不公平な人間関係が発生しやすくなります。
■ 現代における「タテ社会」の変化と新たな動き
社会が変化する中で、「タテ社会」は次第に揺らぎつつあります。特に以下の3つの動きが
目立っています。
1. 若い世代の価値観の変化
終身雇用が崩れ、転職が一般化する中で、「年功序列はナンセンス」という考え方が
浸透しています。成果やスキルに応じて評価されるべきという意識が強まっています。
2. フラット組織やプロジェクト型チームの増加
ベンチャー企業やクリエイティブ業界では、年齢や役職に関係なくフラットな関係を目指す動きが加速しています。肩書に頼らず、能力やアイデアで評価される組織が増えています。
3. タテ社会の「良さ」を残しつつ進化する組織
「先輩の経験を学ぶ」「目上の人を尊重する」といったタテ社会の良さを保ちつつ、若手の意見も積極的に取り入れるハイブリッド型の組織づくりに注力する企業も出てきています。

■ 「タテ社会」をどう活かしていくべきか?
「タテ社会」が完全に消え去ることはないでしょう。むしろ、上下関係の良さを活かし
つつ、個人の意見が尊重される「横のつながり」をうまく取り入れることが、これからの
日本社会に求められています。
例えば、会社内で「先輩が指導し、後輩が学ぶ」文化は、知識の伝達において大きな
強みです。しかし、その関係性が硬直化し、若手が意見を言いづらい環境になると、
イノベーションは停滞してしまいます。
重要なのは、「タテ」と「ヨコ」のバランスを見極めることです。
『タテの秩序で安定を生みつつ、ヨコのつながりで新しいアイデアを育む』
そんな柔軟な社会や組織こそが、これからの時代に求められるのではないでしょうか。
「タテ社会なんて古い」と切り捨てるのは簡単ですが、その中にも日本の良さや独自の
文化が息づいています。問題なのは「タテ社会そのもの」ではなく、「そのあり方の硬直化」です。過去の良さを活かしつつ、今の時代に合った柔軟なつながり方を模索することこそ、次の時代を生き抜くカギになるのではないかと感じています。
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